新春企画・今回は失敗の少ないスピーカーの自作エッジの作り方です。
以下の記事も合わせて読んでいただけると自作エッジの意義やエッジの硬さに関する考察も伝わるかと
・自作エッジのすすめ、自作エッジを使う理由
以下の記事は自作エッジ制作でここに記述のない技もありますので、是非、合わせてお読みいただれけばと思います。
・TRIO LS-10、レストア作業・自作エッジで修復スピーカーエッジの作り方については、検索するとかなりの数のWebサイトがヒットしますが、「そこんとこ、どうするの?」といった肝心な箇所が書かれていない記事も多いため、なるべく詳しく当方の作成方法を記事化してみました。
スピーカーエッジ製作の一助となれば幸いです。
本記事の途中に実際の作業の動画もありますので合わせてご覧ください。
必要な材料:
・布切れ(伸び縮みしない薄い綿製のものが理想、理由は手順7に後述)
・バックアップ材(手順5に詳細記述)
・液体ゴム(ユタカメイク・液体ゴム・水性)
・幅広の両面テープ(ごく普通のもの)
・台紙(作例は16cmユニット用なのでA4コピー用紙)
必要な道具:
・定規またはノギス
・ベニア板などの平板(作例は16cmユニット用なのでダイソーのA3画板を使用)
・コンパス
・カッターナイフ
・ハサミ
・平筆(毛が柔らかいもの、ダイソーの100均のもので十分)
・液体ゴム希釈用の使い捨てカップ(ペットボトルをカット)
・液体ゴムに使うスプーン(使い捨てのプラ製でOK)
あれば便利な道具・材料:
・15〜20mm厚の板(バックアップ材を通す穴を開けた板)
・サンドペーパーやラッカーシンナーなど古いエッジを除去するためのもの
では、早速ですが作り方です。
1.対象のユニットの古いエッジを除去
まず、対象のユニットの朽ちた古いエッジを完全に除去します。画像は薄手のゴムエッジが効果したものなので爪で引っかくとペリペリと剥がれますが、ウレタンエッジなどは#240〜#400程度のサンドペーパーでこすった方が綺麗に取れるものもあります。接着剤が残っていたりするとサイズの計測ミスや新エッジの装着にも悪影響がありますので、キレイに除去してください。モノによってはかなりの根気を要するものもあります。
左のユニットのようにコーン紙のみの状態になるよう古エッジをキレイに除去
2.対象のユニットの計測
A(コーン紙の外周)、B(フレームの内周)、C(エッジの最外形サイズ)を正確に計測します。できればノギスで計測します。Cはエッジの最外形サイズとなりますが1〜2mm小さめがよいです。この画像のユニット(DENON SC-7.5)はフレームのエッジガスケットを剥がしてはいけないタイプなので、ガスケットがそのままですが、通常はフレーム剥き出し状態にして計測します。
3.台紙に製図
手順2で計測した口径をコンパスで台紙に描きますが、AとBは計測したそのままの値で円を描いてはイケマセン。
まず、完成時のエッジのサイズは「バックアップ材の太さ+使用する布の厚x2」になります。手順2で計測した口径そのままの値でこの後の作業を進めるとロール部分が微妙に太過ぎて装着できないエッジになってしまいます。
製図は以下のように行います
・Aは計測したAの値に布の厚さx2を足した直径。
・Bは計測したBの値から布の厚さx2を引いた直径。
・AとBの半径の差=使用するバックアップ材の太さ。
D(エッジの最内周)はAとの差分がコーンに装着する際の糊代となりますので、Aを元に適切なサイズにしてください。ユニットのサイズにもよりますが、16cmユニットで概ね5〜10mmほどの幅があれば十分です。外貼りのエッジの場合、Dのサイズは元のエッジの最内周と同一値か1〜2mm小さめがよいです。コンパスで同じ中心穴で何度も円を描くと中心穴が広がって誤差が出るのを防ぐには中心穴にセロテープを貼るとよいです。全く同じ円を台紙の裏側にも描きます(理由は手順10を参照)。
4.台紙に幅広の両面テープを貼る
手順3で製図した台紙に幅広の両面テープを貼ります。両面テープは超強力タイプを使用するとエッジ完成時に台紙を剥がすのが厄介なので、ごく普通の一般用途のものでOKです。ここでは一般用で幅40mmのものを使っています。
下の画像のように製図した円の全面を覆うように隙間なく貼ってください(ちょっと分かりにくいですが)。この段階ではまだ貼り付けた両面テープの保護紙は剥がしません。
5.バックアップ材のカット
バックアップ材とは以下のような発泡ポリエチレンのロール材です。ホームセンターで売っています。
使用する太さは作成するエッジのロール部分の大きさに依存しますので適切な太さのものを選んでください。完成時のエッジのサイズは「バックアップ材の太さ+使用する布の厚x2」となります。エッジのロール部分が10mmで使用する布の厚みが0.3〜0.5mmであれば8mmの太さのバックアップ材を使用します(布はゴムが浸透して少し厚くなります)。ロール部分が10mmで10mmの太さのバックアップ材を使用すると太過ぎるエッジになる可能性が高いです。
バックアップ材のカットは以下のように行うのが理想です。カッターの刃はバックアップ材に対して斜めに当たるようにするとスムースに切れます。バックアップ材の縦断カットの精度は出来上がりのエッジのロールの高さになりますのでカットの精度は重要です。均一のサイズでカットしていない場合、円周の部分部分でロールの高さが違うイビつなエッジが出来てしまいます。
この画像のような穴あきの板材が作れない場合、バックアップ材をハサミで縦断するのもありですが、できあがりのエッジがイビつにならないよう、精度には注意してカットしてください。
6.バックアップ材の台紙への貼り付け
台紙の両面テープの保護紙を剥がして、カットした半円断面のバックアップ材を台紙に貼り付けます。円周A-Bの幅よりもバックアップ材の幅が小さい場合、バックアップ材はAに沿って貼るようにします。
バックアップ材は凹みやすいので、局所的に強く抑えないように。またバックアップ材は引っ張ると伸びるので引っ張りながら貼り付けないよう注意してください(張力があると両面テープからバックアップ材が剥がれる恐れがあります)。
ロールのちょっとした凸凹など、意外とはっきりと完成時のエッジのロールに現れますので、貼り付けたバックアップ材の継ぎ目にはテープで継ぎ目が表面化しないようにしてください。
7.エッジ素材となる布の台紙への貼り付け
重要局面です!
この手順で最も注意しないといけない点は「貼った布が台紙から剥がれないこと」を念頭に置きます。
液体ゴム塗布後に布が台紙から浮くとイビつな形状のエッジになってしまうためです。
エッジの素材となる布を台紙の両面テープに貼り付けますが、重要なポイントは
・布を引っ張り気味でロールに成形して貼らないこと
・布を何度も両面テープから剥がして貼り直さないこと
1つめのポイントはエッジ製作の多くのWebページでも言われていますが、理由が書かれていないことが殆どです。
布を引っ張り気味にしてロールに成形すると液体ゴムを塗った際、引っ張った布の張力で布が台紙から浮いてしまうというのが理由です。2つめのポイントも同様、布を何度も両面テープから剥がして貼り直すと布と両面テープとの接着力が落ちて、結果、液体ゴム塗布後に布が台紙から浮いてしまう原因になるためです。
ロール(バックアップ材)に接着剤等を塗る必要はありません。
エッジ素材となる布について:
エッジ素材となる布は伸縮性のない使い古した薄手の綿素材が最適です(新品の綿は濡れて乾くと縮みが大きいです)。これまでエッジ製作で使用したものではシーツが最適でこの作例でも使い古したシーツを使っています。使い古したTシャツを推奨しているエッジ製作のWebサイトもありますが、Tシャツ素材は伸縮性があるため、引っ張り気味にロールに成形していることに気づきにくく、台紙から剥がれやすいというリスクがあるからです(この点に留意して注意深く作業をするのであればTシャツでもOKです、要はTシャツはエッジ製作に慣れた人向け素材)。
布素材の厚みはユニットの大きさに依存、小さいユニットであればガーゼのような薄いものを使用することもあります。布素材の色はエッジの出来上がりを黒にする場合は特に気にする必要はありません。
では台紙に布を貼り付けていきます、まずは布をフワっと台紙に置きます。
中心から放射状に布を台紙に押し付けて貼り、ロールの内周部分を爪やヘラなどで押さえ込んでいきます。製図の円の中心がわかるよう布の中心を切り抜いていますが(このときはエッジ完成時にサークルカッターで切り抜くつもりだった)、大した意味はないです。
ロールの形状に沿って決して布が突っ張ることがないようロール形状に馴染ませてロール外周を爪やヘラなどで押さえ込んで貼り付けます。
これで布の台紙への貼り付けは完了ですが、できればこのままの状態で数時間放置を推奨。放置することで接着力が弱い部分が浮いてくるからです。
ここまでの段階でエッジの出来栄えのの8〜9割を左右します。焦らず丁寧に作業を行うことで失敗のないキレイなエッジが完成します!
ワンポイント:
布を貼り付ける際、エッジとは別の箇所に小さなロールを同時に作って液体ゴムの段階毎に硬さのチェックを行うと、よりよいエッジの製作に役立ちます。
8.液体ゴムの塗布・最初
ここからは液体ゴムを塗っては乾燥の手順となります。使用する液体ゴムはユタカメイクの水性の液体ゴムです。シンナーで希釈したシリコンシーラントを使用したこともありましたが、シンナーで希釈したシリコンシーラントは乾燥に時間がかかること、シリコンゴムは接着が難しいため、ユタカメイクの液体ゴムに落ち着いたという経緯があります。
最初に塗る液体ゴムは、しっかりと布に染み込んでもらう必要があるので倍に薄めたものを使います。軽量カップなどで正確に倍に薄める必要はなく、概ね液体ゴムと同量の水で薄めればOKです。使い捨てのスプーンがあると便利です。筆は毛先の柔らかい平筆です。大口径である程度の固めのエッジが必要な場合は濃いめの液体ゴムを最初に塗るとよいです。
筆に十分に液体ゴムを染み込ませて布に塗っていきます、この段階は液体ゴムを均一に塗ることはあまり意識せず、若干飽和する程たっぷりと塗って構いません。黒の液体ゴムですが、液状の時は緑色のヘドロのような色です。完全に乾くと黒になります。
乾燥途中の画像です。乾燥が進んだ部分が黒に変わっているのが分かると思います。部屋の温度などにもよりますが、数時間で全体が完全に真っ黒になれば乾燥状態ですので次の段階に進めます。小口径で柔らかめのエッジが必要な場合、この段階で終了することもあります。
9.さらに液体ゴムを塗布
ここからは液体ゴムを塗っては乾燥の繰り返しです。液体ゴムはなるべく均一になるよう意識して塗ります。重ね塗りを数度行って徐々にエッジを硬くしていきたい場合は薄めの液体ゴムを、塗る回数を抑えて早めに硬めにしたい場合は濃いめの液体ゴムを塗ります。
感覚的には
8〜12cmで最初塗り+0〜1度塗り
12〜16cmで最初塗り+1〜3度塗り
16〜20cmで最初塗り+2〜3度塗り
みたいな感じですかね。
エッジの硬さの確認は手順7で設けた確認用のロール(下の画像では右のエッジの下にあるもの)があると確実です。
10.液体ゴムの乾燥〜台紙からの切り抜き
適度な硬さまで重ね塗りを行い、乾燥すればあとは台紙からの切り抜きを行います。
そこで便利なのが手順3で描いた台紙の裏面の円です。
裏面に描いておいた最外周と最内周の円を切り抜けば容易にエッジの切り出しが行えます。
これがないと乾いた液体ゴムの上にコンパスで再び円を描くハメになるのですが、乾いた液体ゴムにコンパスでキレイに円を描くことは不可能です。サークルカッターで切り抜く場合、ロータリー刃タイプのサークルカッターでないと上手く切り抜くのは難しく、結局は円に沿ってハサミで切り抜くのが一番というのが当方の行き着いた手法です。
11.台紙を剥がして完成
台紙から切り抜いたエッジはまだ裏面に台紙が張り付いたままで、この台紙は両面テープ+液体ゴムで頑強にエッジに張り付いています。
1分ほど水につけて両面テープの粘着力を落とすと容易に剥がすことが可能です(ユタカメイクの水性液体ゴムは長時間水にはさらさないよう注意書きがあります)。台紙を剥がすと同時にロール部のバックアップ材も剥がれます。
完成したエッジがこれです!
この作例で完成した自作エッジを貼り付けたユニットです(アイワの古い16cmウーファー)。
これまで当方がエッジ製作をして失敗したこと、迷ったこと、便利だと思ったことをなるべく多く盛り込んで詳細に渡って作成方法を書いてみました。
下記の記事も合わせてお読みいただければと思います。
エッジ製作の一助になれば幸いです。
・TRIO LS-10、レストア作業・自作エッジで修復
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「スピーカーの自作エッジの作り方・永久保存・詳細版」への1件のフィードバック
始めまして。
これから、AIWA SC-61のエッジ交換をやってみる予定です。こちらの記事を拝見して、感心しました。凄いですね!
とても、参考になります。
もし、可能であれば、このSP(ウーファー)のエッジの寸法を教えていただけると幸いです。(記事中のABCD)
きっと、お役には立たないと思いますが、こ知らのサイトにSPの寸法を当たる、PDFファイルが掲載されています。
https://ukigoke2016.wixsite.com/mysite/pdf
突然のお願いで、誠に恐縮です。